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ブログ

病を生き延びてきた遺伝子 

3月からとにかく論文を読む時間を生み出そうと、後期研修医でローテーション中の先生、佐藤淑先生をいれて『NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE』を読むこととしている。これ自身は毎週発行されていて世界で最も読まれているものであり、バラエテイーに富んだ話題が色々な形で載り、私の大好きな医学雑誌である。アメリカでこれが発行された翌日には「あれ読んだ―?」「どう思う?」なんて会話をスタッフや研修医たちがしているのをみて、羨ましく思ったものである。これを目指して読むことを習慣化しようと週1か週2、血液学やオンコロジーによる話題に絞って読みあうこととしている。100回達成したらボストンに行くぞ!なんて褒美も用意し、カレンダーにシールを貼りながら意欲がうすれないように視覚的に工夫も始めた。さてこの日の話題はHIVに罹りにくいとされる遺伝子変異CCR5Δ32の話であった。<次へ>

CCR5という蛋白は、HIVが人の細胞に感染する際に用いられる蛋白であるが、この蛋白に遺伝子突然変異がある人の一群ではHIVに罹らないのだという。その突然変異CCR5Δ32といわれるものを、患者から取り出したリンパ球に遺伝子操作して組み込み、また患者に輸血のように戻すことでウイルス量を減らし、薬物フリーにもっていけないかという試みの論文であった。

そこで面白いのはCCR5Δ32は東アジア人にはほとんどおらず、ヨーロッパ系の人に多いということ。そしてこの遺伝子を持った人はその昔先祖が天然痘を生き延びた人々であった、というのが専らの説なのだそうである。ちょうどこの頃私は左にある<迷惑な進化>(日本放送出版協会)という本を手にしていた。これがまた同じような話が描かれていて面白い。ヘモクロマトーシスという鉄が体に溜まってしまう病気の遺伝子は西ヨーロッパ人に多いのであるが、この鉄というのが実は感染症に関係している。ヘモクロマトーシスの人では細菌などを貪食するマクロファージの中に本来あるべき鉄分が少なく、臓器に多く存在し臓器障害を起こす。しかし昔ペストが猛威を振るった頃、ペスト菌は正常な人の脾臓、リンパ節に入りマクロファージが菌を食べ、それがまたリンパ系組織に戻り組織を破壊して広がる。ということがみられていたようだが、鉄は生物の栄養となるのでマクロファージの少ないヘモクロマトーシスの人はペストにやれられてしまうことが逆に少なく、ペストの猛威から生き延びる選択がかかったのだと書かれている。その他にも遺伝的疾患とされるI型糖尿病の話や、鎌状赤血球症についても遺伝子が選択されたという話もあり、とても面白い。環境や感染症などから遺伝子の選択がなされて、その歴史がDNAに刻まれ我々は生きている。大きな壮大な話である。一度読んでみて下さい。