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妊婦における血小板減少症

1.ITP 免疫性血小板減少症
2.妊娠性血小板減少症(gestational thrompocytopenia):GT
3.HELLP症候群  TTPに似ている。

背景

妊婦が最後妊娠が終わるまでに血小板減少がおきるのは6.6-11.6%という観察研究があるが10万以下になるのは1%程度。

血小板減少の原因

1.たまたま妊娠中に血小板減少でみつかるのはそのほとんどが妊娠性血小板減少症である。
  だいたい全体の70-80%
2.妊娠性血小板減少症(GT)は、妊娠中期から後期にかけておきることが多く、機序はわかっていない。
  血液希釈やクリアランスの増加に伴うとも考えられていた。特別な検査はなく除外診断である。血小板低下の
  程度も軽度から中等度で軽く、その2/3は血小板数が13-15万/μLである。診断のための血小板数の定まった
  値はないが、通常8万/μLをきったところでさらなる検査をすることを検討する。血小板数が5万/μLではGT
  とは考えにくい。血小板数減少の既往がなくGTと考えられる人であれば出産後1-2ヶ月で回復し、新生児にも
  血小板数低下はみられない。
3.ITPは妊娠中血小板減少で2番目に多い原因疾患で1-4%をしめる。
  出産時に血小板数が低下している妊婦の3%程度までにみられる。GTとの鑑別はしばしば難しい。過去の
  ITPの既往や妊娠前の血小板数が大切な情報である。妊娠初期から血小板数が10万/μL以下でかつ妊娠が進むに
     つれて血小板が低下してくる場合にはITPの可能性が高い。(そう実際には診断は簡単ではないことが多い。)
  ITPに間違われる疾患でtypeIIBのVWDがある。血小板数は1-2万/μLまで低下することある。
  出産前1-3日が最も低下するが出産後急激に回復する。

妊娠に伴う血小板減少の原因
(1)妊娠特異的:妊娠性血小板減少症(gestational thrompocytopenia)70-80%
         Preeclampsia: 15-20%
         HELLP syndrome <1%
         Acute fatty liver of pregnancy
(2)妊娠非特異的:ITP:1-4%
          2次性ITP(HIV,HCV,H.pyrori,SLE)<1%
          薬剤性<1% 
          typeIIbvWD<1%
          先天的<1%

 その他全身性疾患としてTTP,SLE,抗リン脂質抗体症候群、ウイルス性疾患、骨髄疾患、栄養障害、脾臓分布異常

●GTとITPの鑑別としてのポイント
(1)妊娠のどの時期に発症するか:GTは中期から後期に、ITPはいつでも
(2)血小板数;GTでは5万/μL低下くらいmでだがITPではさらに低下することも。
(3)GTでは妊娠がすすむととともにPLT低下
(4)妊娠期以外の血小板低下の病歴があるとITPらしい
(5)新生児の血小板減少 ITPにみられるがGTではみられない。
(6)出産後の回復 GTでは確実だたITPでは回復することもありしないこともある。

4.血小板だけが低下している妊婦の人に対しての検査
CBC、末梢血血液像(注意深くみることが大切、巨大血小板などの形態異常がみつかることもある。巨大血小板では先天性の可能性がある)、肝機能、甲状腺(妊娠合併症として甲状腺の機能異常としてもつことがありfetal riskがあるため自己免疫の関連とあわせて検査しておく)、免疫グロブリン、抗リン脂質抗体、抗核抗体、H,pyroli,HIV,HCV,HBV、凝固機能検査(PT,aPTT)
もし出血の既往や家族歴があるときには、VWFの活性と抗原、リストセチン誘発血小板減少などを調べる。
骨髄検査はほとんど必要ないことが多いし、また胎児の血小板低下の予測にはならない。

5.どのくらいの頻度でモニターしたらよいか。
GTである可能性が高いのであれば、産科検診の時の検査で問題なし。
また出産後は1-3ヶ月は血小板の変化をみたほうがよい。
ITPの可能性がある場合には妊娠期には2-4週ごとに調べる。34週で8万/μLの場合は1週間ごとにフォローする。GTでは通常の出産となんら変わりない管理でいいが、一部の患者では出産時のの腰椎麻酔や全身麻酔にリスクを伴う。ITPが除外できない血小板数5-8万/μLでは、予定日の10日前からPSL10mgをのませることをすることもある。またもう少し多い量を投与したり、またある専門家は免疫グロブリンを1g/kgを投与するということを推奨する人もいるが臨床試験のデータは存在しない。

6.ITPはどのような基準で治療するか。
出血症状があったり、血小板数が3万/μLだった場合、ある手技を要する場合には妊娠初期、中期の場合に治療開始する。中期まで安定していても、後期にはいり急に血小板数が低下することがあり頻回のチェックを要することがある。

7.次の妊娠でどうなると予測されるか。
ITPと診断された92人の女性の11年に及び観察を行った論文があるが、そこでは初めてITPといわれたときよりも2回目のほうが治療が必要となることが少ない傾向にある。出血の合併症は初回妊娠でもその次以降でも変わりがない。89%の女性で血小板数は15万/μL以下であり、ほとんどが軽度から中等度の血小板減少である。しかし31%が治療を要するレベルとなっていた。また新生児には28.4%に血小板減少がみられ、5万/μL以下となるものも10%みられた。

8.妊娠中ではどんな治療が安全か。
血小板数が3万/μL以上あり症状がない場合には治療の必要性はなし。初期治療は通常のITPと同じでPSLを開始するが、少量PSL10mgから開始したりする。3万/μL以上を維持するように用量調節する。(必ずしも正常値にもっていく必要はなし。)しかしPSLには妊娠期に体重増加の問題、血糖上昇や高血圧を誘発する可能性もあることを念頭におくべきである。
Cochrane meta-analysisでは早産の可能性がある場合に、34週間前に24mgのベータメタゾンかデキサメサゾンを1回投与することで胎児の肺の成長を促し有用であると述べている。また別のmeta解析では1期にステロイドを使用するとoral cleftの率が高くなるという。
出産後のステロイド減量は血小板数をしっかりモニターしながら急激に低下しないようにする。もしステロイドの副作用が強かったり十分な血小板数が維持できないときには大量グロブリンを使用することもよい。

PSL治療に反応しないときには、アザチオプリンは妊娠中に安全に投与することはできるが新生児に免疫の問題が起きる可能性はある。ステロイドや大量グロブリンに効果が無い場合にはグロブリンかアザシオプリンとともに大量メチルプレドニゾロンを行うこともある。炎症性腸疾患の妊婦にシクロスポリンが使われて毒性がそれほど強くなかったという報告があるが、ITPでは使用経験の報告はない。

脾摘は第2妊娠期に行えば胎児への全身麻酔の影響も最も少なく合併症が少なく寛解に達するかもしれない。脾摘により新生児の抗体移行が多くなることはない。
リツキサンは胎盤を通過するので勧められない。
短期間のダナゾールが第3妊娠期に使用されることはあるがbirth defectと関係するこもあるため避けるべきである。Vinca alkaloids(オンコビンなど)、Cyclophosphamide(エンドキサン)は安全ではない。Thrombopoietinc receptor agonistの安全性は確立されていないため推奨されない。

SLEや抗カルジオリピン抗体に関連する血小板減少症はITPほど程度は重たくない。PLTが3万/μL以下や活動性の出血のある場合にはステロイドか免疫グロブリンの投与を行う。反応がみられなければazathioprineを推奨する。この場合血栓と出血とのバランスをとらなくてはならない。血小板数が5万/μL以上の場合には低用量のバイアスピリンを投与。血栓の既往があったり流産の既往があるときには低分子ヘパリンの使用を考慮する。血小板が5万/μL以上あれば安全に抗凝固療法は行えると判断する。

9.出産をどのように管理するか。
ITPは必ずしも帝王切開の適応にはならないので産科的適応に従えばよい。ただし出血リスクが高い方法は避ける。(吸引分娩、胎児頭皮からの血液サンプル採取)。
胎児の出血は出産後24-48時間でおきることが多く、それらは出産時間にはおきていない。頭皮や臍帯血からの胎児の血小板測定は出血リスクを高めることもあり推奨していない。

腰椎麻酔は各病院によりその基準が異なる。(筆者の施設の麻酔科は8万/μL)。もしそれ以下の場合で治療をしていない場合には、出産前1-2週間短期的にPSL10-20mgを投与したりグロブリン投与して血小板をあげることを行うこともある。血小板輸血を腰椎麻酔前にするのは適していない。術後に投与するほうが消費が激しいこともありまだいいかもしれない。また出血のときのためにとっておいたほうがよい。
合併症のないITPの経腟分娩では血小板数は2-5万/μLでおこなわれている。リスクはあるので5万/μL以上をすすめたい。目標に達するために免疫グロブリンや血小板輸血が行われる。血小板輸血をしている確率は5-18.9%である。

10.新生児の管理
ITPの母親から生まれる子どもの10%程度くらいまではPLT<5万/μL、5%がPLT<2万/μL、脳出血がおきるのは0-1.5%。胎児の血小板数を直接測定する方法はなく、また母親と胎児の血小板数の関係はない。重症な血小板減少がおきるかどうかは、以前の出産でおきたかどうかである。治療抵抗性のITPでは新生児の血小板数低下のリスクは高くなる。
出産後にすぐに治療が必要かどうかの新生児採血を末梢血か臍帯血から行う。踵を穿刺した血液での検査は凝固したりしてデータが正確ではないので行うべきではない。正常値であれば治療は不要だが、母親には1週間程度皮下出血などの観察をするように教育すべきである。また血小板数が少ないときには連日採血を行う。通常出産後2-5日に最も低下し、7日目くらいから急激に上昇する。しかし血小板数低下は数週間、数ヶ月続く。血小板数が出産時に5万/μL以下であった場合には症状がなくても頭蓋内のエコーを行うことをお願いしている。症状がなくてもすぐに治療が必要であり、また次の出産に対しての対応が変わってくるからである。また血小板数が安心な値と確定されるまではVitKの注射などの筋肉内注射は控えるべきである。我々は出産後のPLT3万/μL以下や活動性の出血があれば1g/kgのグロブリンを2日間、血小板の輸血を行う。3-5万/μLであれば数週間ごとにグロブリンのみ行う。

11 Thrombotic microangiopathy of pregnancy Preeclampsia、 HELLP syndrome(溶血、肝障害、血小板減少症)、急性脂肪肝(AFLP)

(1)Preeclampsiaは妊娠中期から後期における血小板減少にて2番目に多い原因で21%程度を占める。妊娠20W 以降で血圧がはじめてsBP>140mmHg,dBP>90に蛋白尿(0.3g/24時間)を併発。妊娠高血圧の15-25%がPreeclampsiaとなる。また出産後4-6週間もPreeclampsiaの症状が続くこともある。血小板減少症がPreeclampsiaの最初の症状であることもある。5万/μL以下になるのは5%以下である。血管内溶血を伴うのはより激しいPreeclampsiaで多いわけではない。肝障害やLDH上昇がおきることもあるがHELLP症候群よりまれである。
(2)Thrombotic microangiopathy of pregnancyの治療。妊婦や子どもの状態が急に変化することはよくあることである。34週をすぎた場合、fetal distressの場合severe maternal disease では早期分娩の適応がある。34週未満の場合には胎児の肺機能を成熟させるためにステロイドを投与して48時間後に分娩することが推奨される。分娩前に凝固系の改善(FFP投与、赤血球投与、血小板投与)などを行う必要がある。出産前の血小板は5万/μL以上を目標とする。妊婦の状態がおかしくなったらただちに帝王切開を行うべきである。
痙攣はMgで予防する。血圧コントロールをする。
(3)HELLP症候群の人の出産後の経過観察 : 出産後24-48時間後にLDH上昇、血小板低下が悪化することがあるため要注意である。出産後数週間も溶血所見はないがLDHが軽度上昇したりすることはある。DICや腎不全、腹水がなければ血小板は出産後4日目までには上昇することが多く6日目までには10万/μLに上昇する。コクランメタ解析では、ステロイドを使用している人のほうがそうでない人に比べて血小板の改善がよいという結果がでているが、妊婦の予後や新生児の予後には影響しない。βメタゾンよりもデキサメサゾンのほうがより早く血小板が回復する。HELLP症候群ではデキサメサゾンを10mg 12時間ごとに2-4回出産前、出産後2回以上12時間後と点滴静注で投与する。
(4)AFLP(acute fatty liver of pregnancy) 通常出産とともに改善する。出産後2-3日して改善することが多い。重症例はICUでの管理が必要となるケースや移植などを検討する症例もある。
(5)Thrombotic microangiopathy of pregnancyで血小板減少、溶血、腎障害が出産48-72時間後も続くようであれば血漿交換を推奨する。妊娠期におけるTTP/aHUSとの鑑別は難しい。
(6)TTP/HUS 妊娠期のTTP/HUSの頻度は25000分の1であり通常の頻度よりも高い。発症時期は妊娠のいつでもおこりえていろいろ。
TTPはADAMTS13の欠損であり、まれに先天的な欠損(Upshaw-Schulman syndrome)があり妊娠で初めて発症することがあるが多くは後天的で、ADAMTS13に対する抗体ができるのが原因である。ただしその抗体産生はDIC,HUS,preeclampsia,HELLP症候群でもみられる。しかしその活性が5%以下になるほどの重度のものはTTPに特異的である。
HUSはもっとheterogenousな疾患で、HUSの90%は志賀毒素産生する大腸菌(O-157:H7,O104:H4が典型的)による。非典型的なHUSは妊娠によるもので補体系のalternative pathwayの先天的欠損によりおきる。 

TTP/HUSは早い診断をし治療を早急に開始することが大切である。妊娠中のTTP/HUSの治療は通常の時と同じである。分娩しても一般的にはTTPは解決されない。ただしpreeclampsiaに伴うTTPであれば分娩させる適応はある。診断が確定できなくても血漿交換を開始するほうがそれに伴う合併症などのリスクよりも利益のほうが勝る。血漿交換前にHIV,HBV,HCVは調べておく(それに伴うTTPもあるため)。血漿交換はPLTが15万/μL以上3日間持続、LDH正常になるまで連日行う。その後2週間以上かけて漸減していく。イギリスのガイドラインではPLTが5万/μL以上に上昇したらアスピリン少量と低分子ヘパリン(dalteparin5000IU/d)を開始するとあるが他の国では行っていないところも多い。TTPが妊娠初期に発症した場合は出産するまで血漿交換を繰り返すことになるであろう。回数はLDH,血小板数による。血漿交換に反応しない時には分娩が推奨される。腎障害があれば透析が必要となる。先天的なTTPでは母体に10-15ml/kgの血漿を輸注するので足りると思われるが個々で異なる。血漿交換が必要になることもあるであろうが、それもLDHと血小板をみながら頻度を決める。出産前には十分なADAMTS13を補充するためにも血漿交換を行うことを勧める。子宮内死亡などが動脈塞栓などで起きるリスクもある。TTPが胎児にも移行するという報告はない。次の妊娠でも先天的TTPでは血漿投与を行わなければ100%おきるので妊娠初期から早期に治療介入することが必要である。また後天的なTTPでの次の妊娠での再発は20%まで。著者らはADANTS13の活性を細かくおっていって、<10%となったり破砕赤血球が末梢で目立つようになったりしたら予防的に血漿交換を開始するという。